真珠だより

2023.08.24 真珠だより ― 横田伸之SPの真珠こぼれ話

無ければナチュラルとは限らない ~無調色の話~

 

真珠を購入しようとあれこれ調べ始めると、必ず目にするのが「調色」という言葉ではないでしょうか?

『なんだ、真珠って色を入れてあるのか。でもまあそういうものらしいから仕方ないか。』と思った矢先、「無調色」なんていう魅力的な言葉を目にして『そうそう!探していたのはこういうの!!』と心を躍らせた方も多いかもしれません。

でもどうか、少しだけ待ってください。

そもそも、なぜ調色されている真珠が多いのか?

調色はあこや真珠の特性と密接な関係があります。

あこや真珠はその大半が多かれ少なかれ“シミ”を持って生まれてきます。
そしてまた本体に黄色系の色素を持って生まれてくる真珠も多いです。

宝石として輝かせるにはその“シミ”を抜いたり、黄色味を軽減したりするホワイトニングの工程が欠かせません。

その工程でシミや黄色味だけ上手く抜ければ良いのですがなかなかそうも行かず、真珠がもともと持っているピンクその他の色味も一緒に抜けてしまいます。

そこで、ホワイトニングでシミや黄色味を綺麗にした後、その真珠がもともと持っていた色味を戻してあげるために「調色」を施します。

ホワイトニング→調色の一連の処理はシミや黄色味を持って生まれてくるあこや真珠には欠かせないため、宝石業界では正当な処理として認められています。皇室にお納めするような最上級の真珠もこれらの処理を経ています。

それでは一体、無調色とは何なのか?

読んで字のごとく“調色”が“無”なのですが、他も“無”とは書かれていません。

そうです。何かしら加工がされていても調色がされていなければ無調色。実際、全部とは言いませんが無調色を謳っている真珠の大半は程度の差はあれホワイトニングされています。無調色に対応する言葉としてナチュラルホワイトという言葉が使われているケースも見かけますが、少しでもホワイトニングされていれば厳密に言うなら加工で仕上げられた白色です。

『でも、ホワイトニングするのが普通なのだったらその後に調色されていない方がよりナチュラルな感じじゃないの?』と思われるかもしれません。

ところが調色前提のホワイトニングでは本体の黄色味を完全に抜いてしまう必要がないため、そのままでは皆さんが魅力を感じるような見た目ではない真珠が少なくありません。

それらを調色せずに皆さんの目を惹くような真珠に仕上げるためにはシミが抜けた後もホワイトニングを継続して白さを際立たせる必要があります。

つまり、こういった真珠には通常の処理以上のホワイトニングがかけられているのです。場合によっては普通のホワイトニングでは使わないような強い薬剤を使ったりしていることもあります。

そういった真珠は加工が完了した時点、つまりは店頭で皆さんが目にする時点で既に真珠層は強いホワイトニングによって傷んでしまっています。そしてそれは真珠の耐久性に影響を及ぼします。早い段階で色が変わり始めたり、粉を吹いたり・・・。
ただ、すべての無調色が無理なホワイトニングをされている訳ではありません。

元来、無調色の真珠とは下記のように素性が良いからこそ調色の必要がない真珠でした。

・奇跡的にシミがほぼ皆無で黄色味も少ないためホワイトニングの必要がない真珠
・シミや黄色味が少なく、軽いホワイトニングで済むため調色の必要がない真珠

これらは今のように無調色という言葉をあちらこちらで見聞きするようになる以前から希にありました。今でも希に見られますが、希ですからもちろん希少で高価です。

少ないはずなのに現在市場でたくさん見られるということは、残念ながら無調色であることを強調するために無理なホワイトニングを施された真珠も多いということです。

調色・無調色を語る際にホワイトニングに焦点を当ててお話しされる方はとても少ないのが現状です。真珠の販売をされている方ですら、無調色という言葉のイメージだけで悪気なく一律に「何の加工もされていない」とか「調色していないからナチュラル」という説明をされる方もいらっしゃるぐらいです。逆に、お店によっては耐久性に対する不安を排除するために無調色の真珠を一切扱わないと決めているところもあります。

安心して持つことができる無調色の真珠が欲しい場合はどうすれば良いのか?

そこで今回も『真珠選びはお店選びから』です。

無調色の中には無調色を謳うために過度のホワイトニングを施された真珠があることをきちんと説明し、耐久性の心配がない無調色の真珠を提案してくれる店員さんがいらっしゃるお店を選ぶようにしてください。

プロのアドバイスをもとに、皆さんが一期一会の素敵な真珠に出会えますよう願っています。
*文中の「真珠」=「あこや真珠」のことを指します。

SP(パールスペシャリスト) 横田伸之